


タルダントはモロッコでも唯一、町が全部城壁で囲まれた姿が残っているところだという。すごい田舎の割には、きれいな町であった。外国人が泊まれるような高級ホテルもあった。
弟の住んでいる家は城壁に囲まれた旧市街地ではなく、郊外の高級?住宅街にあった。聞けば公務員の住宅街だと言うことで、平屋だがかなり大きな建物であった。助手のモロッコ人と同居しているが、弟の私物を勝手に使って困るということであった。
着いたばかりの夜に、弟の知人のモロッコ人の家に遊びに行くことになった。
町の反対側にある、モロッコの中でも貧しい階層にはいる、その人の家には屋根が無いのには驚いた。
細い路地を入り、入り口にロバを飼っている家には大勢の子供達がいたが、私たちが食事をしている時には、子供や女性は決して顔を出さなかった。
ご主人は色の真っ黒な人で、どう見てもモロッコ人には見えなかった。奥さんはどこか気品の漂う人であった。敷物だけはは立派な部屋で、床に大きなお盆に載せて、食事が出されたが、むろん手づかみである。前にモロッコ式の食べ方を習っていたために、それほどとまどうことはなかったが、私たちのほかに何人か近所の男達もきていて、めいめいに挨拶されたが、最初は、誰がここのご主人か判らなかった。
最初は手を洗うための水を出してもらう。右手を洗面器のような容器の上に差し出し、ポットで水をかけてもらい、かえって汚れるのではないか、と思われるような布で手を拭いた。
床の上で食事をするときには、あぐらをかくようにして、右膝を立て、そこを支点に右手で食べる。私が遠慮してパンばかり食べていると、弟から肉を食べるように指導があった。客が肉に手を出すまでは、ほかの人は食べないらしい。
私が羊の肉に手を出すやいなや、ほかの人たちは一斉に肉に手を出し始めた。
腹が空いていたので、満腹するまで食べようと思っていた料理も、弟から「全部食べるな」と注意をされた。ここでは、女性、子供は客の食べた余りを食べるので、その分を残しておかなければいけないらしい。
まだ、腹の虫が鳴いているのを、さも。満腹したかのように床に寝そべったとき、初めてその家に屋根が無いことに気が付いた。枯れ草のようなもので、一応天井らしきものはあるのだが、それを通して星空が見えた。雨のほとんど降らないこのあたりでは、きちんとした屋根は不要なのかもしれないが、私は改めて貧富の格差を覚えた。
砂糖は釣り鐘のような形をした、固まりを割って入れる。これは少しでも温度を下げるための知恵であろうか、お茶の入ったポットから、カップに注ぐ時には、ポットを1メートルほど、上に上げジャージャー音をたてていれる。ハッカの味の聞いた紅茶という感じであった。
その後、大きな器に入った自家製のヨーグルトを出されたが、みんなで回しのみをする。私は口に含んだとたん、こればかりははちょっと駄目だな、と思うひどい味であったが、みんなの目が私に注目しているので、仕方なく思い切って飲み込んだ。
二回目にまた回ってきたが、今度は飲むふりだけにした。後で弟から、「あれは病原菌があるかも知れないから、やばいよ」 といわれたが後の祭りである。幸いなことにいまだ何の病気も出ていない。
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